2017年6月13日火曜日

早慶対決:慶應義塾大理工学部VS早稲田大創造理工学部

 永遠のライバルである慶應義塾大学と早稲田大学。今回はその中で、慶應義塾大学理工学部と早稲田大学創造理工学部の両方に合格した場合は、どちらに進学すべきかという観点から比較していきたい。


※各指標の定義・根拠・出典等については、こちらのページをご覧ください。

 また、スマートフォンで閲覧する場合は、画面を横にすると各指標が見やすいです。

「入学段階では、どちらが優秀な学生が集まっているか」

項目名数値単位数値年度慶應義塾大学
理工学部
早稲田大学創造
理工学部
大学全体の学部生数(人)大学20152885542772
学部の学生数(人)学部201542452782
入試難易度(河合塾)学部20166565
入試難易度(駿台)学部20166461
入試難易度(ベネッセ)学部20167272
入学者数(人)学部2016952635
競争入試での入学者(人)学部2016600307
競争入試の割合(%)学部201663.00%48.30%
入試方式の数(競争入試)学部201511
現役入学者の比率(%)学部2016数値なし76.9

 入試難易度は河合塾とベネッセが同じ数値、駿台については慶應義塾大理工学部が上の数値を出している。したがって、ほぼ互角か、慶應義塾大理工学部が少し優勢ということができるだろう。
 なお、「競争入試の割合」については、慶應義塾大理工学部の方が高いことを加味すると、さらに慶應義塾大理工学部が優位に立つだろう。


「費用対効果はどちらが高いか」

項目名数値単位数値年度慶應義塾大学
理工学部
早稲田大学創造
理工学部
4年間でかかる学費(万円)学部2015649618
学生還元率(%)大学2015128.10%53.80%
奨学費(円)大学201515833910723,018,401,177
学生一人当たりの奨学費(円)大学201554,87470,570
卒業率(%)学部20148283.4
最寄駅の平均家賃(万円)2016日吉・矢上5.0~5.56.5~7

 4年間でかかる学費については、早稲田が30万円ほど安い(学科や専攻によって学費が違う可能性があるため、詳細な比較は各大学のホームページをご確認いただきたい)。なお、学生還元率については、大学全体の数値であり、医学部による「医療収入」によって慶應義塾大はきわめて高い数値が出ている。両学部の比較には適さないことを付記しておきたい。
 単純比較が可能であるのは「学生一人当たりの奨学費」であるが、苦学生が多いイメージ通り、早稲田大の方が高額となっている。
 キャンパス周辺の家賃については、慶應大の方が「郊外型」のキャンパスのため安い。もし、キャンパスの徒歩圏内に住むのであれば、学費の差はなくなると考えても良いかもしれない。
 なお、留年リスク(4年間で卒業できない比率)については、ほとんど同率であり、気にしなくて良いだろう。
 以上の各比較を総合すると、コストパフォーマンスはやや早稲田大が優勢といえるだろう。なお、自宅外通学かで進学コストは変わってくるため、どちらがお得かという判断も変わってくるだろう。(余談だが、慶應義塾大の学内ヒエラルキーは「内部進学」の学生が高いといわれており、言うまでもなく彼らは「お金持ち」の傾向が強く、遊びにもかなりのお金を使うと言われている。もちろん早稲田大にもお金持ちの「内部進学」学生は存在するが、学内ヒエラルキー的にはさほど高くなく、伝統的に地方出身学生が肩身の狭い思いをすることなく個性を発揮できる大学ともいわれている。したがって、堂々と「貧乏学生生活」を送りたいのであれば、早稲田大の方が居心地がいいかもしれない)。


「どちらの大学が充実した学生生活を過ごせるか」

項目名数値単位数値年度慶應義塾大学
理工学部
早稲田大学創造
理工学部
キャンパス学部2016日吉(1~2年)
【郊外型】、
矢上(3~4年)
【郊外型】
西早稲田【都市型】
1年以内退学率(%)学部20142.30.1
4年間退学率(%)学部20144.43.3
入学者の地元占有率(%)学部2016数値なし42.7
大学全体の首都圏出身比率(%)大学201557.161.8
女子入学者の割合(%)学部2016数値なし25.2
大学全体の女子学生数(人)大学20161024715686
大学全体の男子学生数(人)大学20161848826495
大学全体の女子学生比率(%)大学201635.70%37.20%
女性ファッション誌登場人数(人)大学201167156
受入留学生数(人)学部201534154
留学生比率
(留学生数/全学生数)
学部20160.80%5.50%
長期留学派遣学生数(人)大学2015247910
長期留学派遣の割合(%)大学20153.40%8.50%
ST比(人)学部201516.521.1
専任教員数(人)学部2015258132
一人当たり貸出冊数(冊)大学201527.216.2

<キャンパスの立地>
 慶應義塾大理工学部は1、2年と3、4年でキャンパス名称が変わるが、隣接地であるため、通学の仕方は「4年間変わらない」というイメージをもって良いだろう。日吉・矢上は「郊外型」というほど田舎ではないが、都心部からは離れる(渋谷から東急線の特急で20分程度かかる)。日吉はベッドタウンとしてのイメージが強く、静かな環境でキャンパスライフを送れそうだ。とはいいつつも、キャンパスは駅前に位置するため、渋谷や横浜にでるのはかなり便利の良いキャンパスであり、いわゆる「遊びたい学生」にとっても不満はないキャンパスだろう。
 一方で、早稲田大創造理工学部は、日本有数の学生街を擁する早稲田のはずれにあるが、地下鉄副都心線の「西早稲田駅」に近く交通の便は良い場所ににキャンパスを構え、ここで4年間を過ごす。山手線の内側でありながらも、オフィス街とは分離された高田馬場などに近いため、学生にとっては過ごしやすい街だろう。
 キャンパスについては、甲乙つけがたい。一つの判断材料としては、慶應の日吉は文系学部と同じキャンパスである一方、早稲田の西早稲田キャンパスは4年間ずっと「理系のみ」のキャンパスであることだろうか。女子学生比率の高い方は「日吉」キャンパスであるだろうから、キャンパスの雰囲気も少しは華やかになるだろう。しかし一方で、都市型キャンパスの西早稲田キャンパスの利便性も捨てがたい。どちらにせよ、キャンパスについては甲乙つけるのは難しい。

<サークル活動について>
 キャンパスライフへの「憧れ要素」の一つであるサークル活動についても気になるところであるが、具体的な数値は持ち合わせていない。しかし、一般には早稲田大の方がサークル活動が盛んと言われている。というもの、慶應大の場合は多くの学部が途中でキャンパスが変わるため、1年生~4年生までの連続したサークル活動が難しいケースが出てくるからだ。実際に3年生になるとサークルを卒業してしまうケースが多々あるようである。一方の早稲田のサークル活動の活性度は日本一と言っても良いくらいで、1~4年生までが一体となってサークル活動を楽しんでおり、上級年次に上がってからも学部の研究室とサークルを両立させている。なお、先述のように早稲田は理系学部を「西早稲田キャンパス」、文系学部を「早稲田キャンパス」に構えているが、両キャンパスは徒歩圏内でサークル活動も「合同」で行われているケースも多いため、キャンパスが違いうことによるデメリットはさほど考慮しなくて良いだろう。

<ドロップアウトリスク>
 続いて、誰しも避けては通れない、ドロップアウトのリスク。せっかく頑張って勉強して大学に入学したのに、退学してしまっては元も子もない。双方とも大規模大学であるため、退学率は注視すべきデータであるが、早稲田大創造理工学部の方が低いことがわかる。逆に、慶應大理工学部の1年以内退学率は少し高い印象がある。4年退学率はさほど高くないため、1年のみの現象ではあるだろうが、少し気になる数値ではある。
 なお、大学通信社による2014年度「面倒見が良い大学」ランキング(進学校の進路指導教員にアンケートを行って選定)においては、早稲田大が31位(24ポイント)、慶應義塾大が19位(32ポイント)となっており、高校教育の現場においては、慶應大の方がやや「面倒見が良い」という印象があるようだ。

<学生の属性>
 学生の属性を比較していくと、学部単位の女子学生比率は慶應のデータを掲載していないが、別で持ち合わせている過去のデータを見ると、17%程度という数値であるため、早稲田大創造理工学部の方が女子学生比率は高そうだ(「8%程度」の差は僅差とは言えない差であろう)。
 その他で違いが見えるのは、「地方出身者の割合」が早稲田がやや高いということだろうか。地方出身者にとっては、早稲田大の方が同郷の仲間がいる可能性が高く、学生の輪に溶け込みやすい可能性はある。
 したがって、学生の多様性が高く、多様な価値観に触れるという意味では早稲田大創造理工学部が勝っていると言える。
 なお、留学生比率については、「学部単体」の数値となっており、早稲田大学創造理工学部が圧倒している。国際色豊かな学修環境を臨むのであれば、早稲田大創造理工学部に進学する方が良いかもしれない。

<教育面>
 教育面を比較していくと、現在、各大学が競うように力を入れている「留学」については、早稲田大に軍配が上がる。長期留学している学生の割合が2倍以上の開きがあるからだ。先輩の学生が留学に行っている割合が多ければ、自然と留学が身近になるため、もし留学をしたいと考えているのであれば、一つの判断材料にはなりうる。そういう意味では早稲田大に進学した方が留学が身近であり、留学できる確率は高くなる。
 とはいうものの、早稲田は「国際教養学部」を擁しており、その学部が留学率を押し上げている現状があるため、創造理工学部の留学率は見かけほど大差にはならないとも推測される。
 一方で、専任教員一人当たりの学生数(ST比)は、慶應義塾大学理工学部が少なく、「少人数教育」の環境については慶應義塾大学理工学部が優れているといえる。

 なお、学生がどれだけ勉強しているかの指標の一つである「一人当たりの貸出冊数」については、慶應義塾大が大差をつけて勝っているが、これは医学部や薬学部など医療系の学部を抱えていることが影響していると思われ、今回比較している双方の学部生の間では、この数字ほどの差はないと思われる。
 実際の教育効果については、比較が難しいが、大学通信社が進学校の進路指導教員に「進学して伸びた大学」と「進学して伸び悩んだ大学」をアンケートしている。
 2014年10月に実施したアンケートでは、「進学して伸びた」と答えた数は、慶應義塾大が40人、早稲田大が47人、一方で「進学して伸び悩んだ」と答えた数は、慶應義塾大が6人、早稲田大が40人であり、双方の差し引きを加味すると、高校側の印象では、慶應義塾大の方がより「進学して伸びる大学」と認識されているようだ。
 その他の比較としては、同じく大学通信社による2014年度「入学後、生徒の満足度が高い大学」ランキング(進学校の進路指導教員が投票することで選定)において、慶應義塾大は5位(142ポイント)、早稲田大は3位(159ポイント)となっている。こちらでは、早稲田大がやや優位のようだ(といっても、誤差の範囲ともいえる)。

 上記を総合すると、充実したキャンパスライフという観点から見ると、ほぼ互角であるか、強いて言うなれば、少しだけではあるが早稲田大創造理工学部が優勢と言っていいだろう。しかし、キャンパスライフで何を重視するかによって、事情は変わってくる。一番の違いはキャンパスの立地だろうか。学生街に根付いた大学生活を送りたければ早稲田になるだろうし、比較的広々とした郊外型キャンパスを好むのであれば慶應大を選んだ方がよいだろう。入学前はなかなかイメージがわかないだろうから、実際に両大学のキャンパスを訪問してみることをおすすめしたい。
 キャンパスの立地や教育の中身(学問分野・領域等)以外の、大学の「基本機能」についての違いはあまり見つからないというのが実際のところである。早稲田にあって慶應にないもの、慶應にあって早稲田にないもの、という考えを突き詰めると、最後には両校の「イメージ」にたどり着く。
 両校の著名卒業生のリストを比較して、より自分の目指すイメージに近い方を選ぶという手法も「早慶」の選択においては有効かもしれない。


「どちらが幸せな人生を送れる進路に進めるか」

項目名数値単位数値年度慶應義塾大学
理工学部
早稲田大学創造
理工学部
主要企業400社への就職率(%)大学201646.937.4
卒業生数(人)学部2015976634
進学者数(人)学部2015706410
進学率(%)学部201572.30%64.70%
公務員就職者数(人)学部201565
公務員就職比率(%)学部20150.60%0.80%
警察官就職者数(人)大学2015数値なし14
国家公務員総合職(人)大学201592140
CA採用数(人)大学2014数値なし24
国会議員の数(人)大学20158779
上場企業の社長数(人)学部200622※34
社長の数(人)大学201511,70310,993
社長になりやすさ
(社長の数/学生数)
大学20150.410.26
上場企業の役員数(人)学部200693※211
上場企業の役員数(人)大学20152,1531,878
上場企業の役員になりやすさ
(上場企業役員数/学生数)
大学20150.0750.044
※印は旧早稲田大学理工学部のもの

<大企業に入りたい>
 大企業社員として就職すれば、身分は安定し、給与・福利厚生などの待遇面での心配も少ない。その意味で、主要400社への就職率を比較材料として示しているが、慶應大の方が高い結果が出ている。しかし、この数字は大学全体の数字であり、理系学部の場合は優秀な学生は大学院に進学するケースが多いことが想定されるため、一種の「参考数値」として見ていただきたい。
 なお、大学院には進まず、学部卒業時点で就職を希望する場合でも、両学部の学生であれば、普通の大学生活を送れば大企業には就職できると思われ、ここで主要400社の就職率を比較する意味は薄いように思える。結局は、どちらの大学に行くかということよりも、「いかに充実した大学生活を送るか」が重要となってくるだろう。

<大学院に進学する>
 進学率は、慶應義塾大理工学部の方が、8%程度高い(もっとも、大学院進学率は専攻する分野によって異なるため、より幅広い学問分野を扱う慶應と、分野を絞っている早稲田とで単純比較はできない側面もある)。
 しかし、早稲田大創造理工学部も6割を超えており、私学の理系学部の中では有数の進学率であることは付記しておきたい。

<公務員になりたい>
 学部単体の公務員就職比率は、ほとんど変わらず、比較にはならない数値となっている。数値としてはどちらも高くはない。

<主要な就職先の比較>

慶應義塾大学
理工学部
早稲田大学創造
理工学部
富士通大成建設
日立製作所清水建設
みずほフィナンシャルグループ日本放送協会(NHK)
三井住友銀行東京都職員Ⅰ類
三菱東京UFJ銀行日本IBM
日本放送協会みずほフィナンシャルグループ
日本生命保険キヤノン
ソフトバンクグループ国家公務員総合職
キヤノン三井物産
キーエンス

 主要就職先は、双方とも日本を代表する安定企業が並んでおり、就職環境は良好であることがうかがえる。
 しかし、私大の理系最高峰の両学部において、慶應義塾大理工学部で就職できて、早稲田大創造理工学部で就職できない会社はないだろうし、その逆もしかりである。主要就職先の比較はあくまで参考程度として見ていただきたい。

<出世した先輩の多さ>
 先輩がどの程度、出世しているかを比較すると、やはり慶應義塾大が強い。なお、学部別の役員輩出数などは3学部に分かれる以前の「早稲田大学理工学部」の数値となっており、単純比較はできないため、ここではあくまで「大学名」での学閥比較としたい。半ば都市伝説として語られることも多い「学閥」であるが、もし存在するのであればその大学の出身者は有利になる。一方で「学閥」が実際はないのであれば、先輩たちが実力で出世していったということにもなり、その大学の出身者が周りから高く評価されていることにもなる。そういう意味で、「上場企業の役員になりやすさ」等は慶應義塾大の方が明らかに高く、もし出世を期待するのであれば慶應義塾大学の方が少しは有利かもしれない。もちろん、企業によって事情は異なるし、早稲田大だからといって不利になることは決してない。あくまでも慶應の財界での強さが「際立っている」ということである。


<どちらの大学が頑張って「改革」しているか>

項目名数値単位数値年度慶應義塾大学
理工学部
早稲田大学創造
理工学部
国からの特別補助金支給額
(千円)
大学2015903,7281,474,478
学生一人当たり
特別補助金支給額(千円)
大学20153134

 大学教育の現場では、随分前から「改革の必要性」が叫ばれている(大手大学ほど、その改革が進んでいないともいわれる…)。その観点でどちらが頑張って「改革」しているかを、最後に見てみたい。ここで比較するデータは、改革を行っている大学に国から支給される「特別補助金」の額である。
 この数値を比較すると、やや早稲田大の方が優勢となっている。
 さらに優劣をつけるのであれば、大学通信社による2016年度「改革力が高い大学」ランキング(進学校の進路指導教員が投票することで選定)においては、慶應義塾大が9位(58ポイント)、早稲田大が8位(104ポイント)と、高校現場の印象でも、早稲田大が勝っているといえよう。

<まとめ>
 以上、慶應義塾大理工学部と早稲田大創造理工学部を比較してみてきたが、トータルでみると、ほぼ互角と感じられる。細かい点では明らかな差も見られるため、その人の価値観によって何を優先するか決めると良いだろう。なお、実際に両方に合格した人の選択を見てみると、慶應義塾大理工学部に進学した人が71%、早稲田大創造理工学部に進学した人が29%(サンデー毎日2014年7月20日号より)という結果が出ている。
 一方で、強調したいのは、「理工系学部」は、学問分野が細分化されているため、どこで学ぶかよりも「何を学ぶか」が重要であることは忘れてはいけない。理系の研究は「人(教員)」に張り付いているケースが多く、教員の大学間移籍も文系と比べて活発である。自分の学びたい学問分野の第一人者が片方の大学にしかいなければ、文句なしにそちらの大学を選ぶべきである。
 「理工系学部」を選ぶ以上は、そういった観点も含めて、大学選択を行っていただければ幸いである。