2017年2月9日木曜日

産近甲龍対決:近畿大理工学部VS甲南大理工学部

 今回はいわゆる「産近甲龍」の中のライバル校同士である近畿大と甲南大の「理工学部」について比較していきたい。


※各指標の定義・根拠・出典等については、こちらのページをご覧ください。
 また、スマートフォンで閲覧する場合は、画面を横にすると各指標が見やすいです。


「入学段階では、どちらが優秀な学生が集まっているか」

項目名数値単位数値年度近畿大学
理工学部
甲南大学
理工学部
大学全体の学部生数(人)大学2015315869048
学部の学生数(人)学部20154524721
入試難易度(河合塾)学部201652.550
入試難易度(駿台)学部20164949
入試難易度(ベネッセ)学部20166058
入学者数(人)学部20161112155
競争入試での入学者(人)学部2016708112
競争入試の割合(%)学部201663.70%72.30%
現役入学者の比率(%)学部201679.587.1

 入試難易度は近畿大理工学部が2勝1分の結果となっている。駿台こそ同値であるものの、残りの2社は近畿大理工学部が上の数値となっている。
 競争入試の割合については、甲南大理工学部の方が10%弱高い。そのため、難易度は見かけの数値より差はないと受け取っていいだろう。
 (一般入試、センター試験利用入試などの「競争入試」で入学する学生の方が、推薦入試や附属高上がりの学生よりも学力が高いケースが多く、競争入試の割合を下げることにより偏差値を高く見せる大学があるため、「競争入試の割合」を本ブログでは比較するようにしている。)
 よって、「入学段階では、どちらが優秀な学生が集まっているか」は、ほぼ互角に近いと言えるだろうか。


「費用対効果はどちらが高いか」

項目名数値単位数値年度近畿大学
理工学部
甲南大学
理工学部
4年間でかかる学費(万円)学部2015593566
学生還元率(%)大学201542%以下32.30%
奨学費(円)大学2015数値なし122,888,962
学生一人当たりの奨学費(円)大学2015数値なし13582
卒業率(%)学部201480.878.9
最寄駅の平均家賃(万円)20163~3.53.5~4

 4年間でかかる学費については、甲南大理工学部の方が27万円程度安い。ただし、学科によって学費が違う可能性があるため、詳細な比較は各大学のホームページをご確認いただきたい。
 なお、学生還元率や奨学費のデータについては、近畿大の公式HPからはデータが取れなかったため、比較はできない(情報公開が社会的責任として求められている大学においては、少なくとも「奨学費」くらいのデータは公開してほしいものである…)。
 一人暮らしをする場合には、キャンパス周辺の家賃を考えてみると、双方の大学でコストの違いはあまりなさそうだ(大学と住居が近ければ利便性も高く、充実した学生生活になる可能性が高いという考えからこの家賃相場を比較している)。
 留年リスク(4年間で卒業できない比率)についても、僅差であるため判断材料にはならないだろう。
 以上の通り、コスト面では、甲南大理工学部が勝っているといえそうだ。


「どちらの大学が充実した学生生活を過ごせるか」

項目名数値単位数値年度近畿大学
理工学部
甲南大学
理工学部
キャンパス学部2016東大阪【中間型】岡本【中間型】
1年以内退学率(%)学部20141.81.2
4年間退学率(%)学部20147.66.6
入学者の地元占有率(%)学部201655.861.3
女子入学者の割合(%)学部201613.423.2
大学全体の女子学生数(人)大学201697523617
大学全体の男子学生数(人)大学2016225705412
大学全体の女子学生比率(%)大学201630.20%40.10%
女性ファッション誌登場人数(人)大学2011数値なし(2人以下)6
受入留学生数(人)学部2015230
留学生比率
(留学生数/全学生数)
学部20160.50%0.00%
長期留学派遣学生数(人)大学20151041
長期留学派遣の割合(%)大学20150.10%1.80%
ST比(人)学部201528.120
専任教員数(人)学部201516136
一人当たり貸出冊数(冊)大学20158.63.7

<キャンパスの立地>
 まずはキャンパスの立地から。近畿大理工学部は、大阪のターミナル駅なんば駅から近鉄電車で20分の長瀬駅から徒歩10分の「本部キャンパス」で4年間を過ごす。都会ではないが、周囲は学生街となっており、遊び場所にも事欠かない。緑も豊富ながらも利便性も悪くない、バランスの取れたキャンパスと言えるだろう。
 一方の、甲南大学は、一言で言うとオシャレなキャンパス。阪急神戸線の岡本駅かJR神戸線の摂津本山駅から徒歩10分の「岡本キャンパス」で4年間を過ごす。周囲にはオシャレな店が並んでおり、キャンパス界隈がオシャレな大学のイメージそのものといっていいだろう。
 キャンパスを比較すると、どちらもポテンシャルが高く、甲乙つけがたい。結局はどちらの「イメージ」を重視するかであろう。ビンボー学生を積極的に楽しみたいのであれば近畿大であろうし、お金持ち学生に交じって優雅な学生生活を送りたければ甲南大だろう。価値観によってどちらで大学生活を送りたいかという判断は異なるため、実際に足を運んで自分の目で確かめることをお勧めする。

<ドロップアウトリスク>
 続いて、誰しも避けては通れない、ドロップアウトのリスク。せっかく頑張って勉強して大学に入学したのに、退学してしまっては元も子もない。双方とも大規模大学であるため、退学率は注視すべきデータであるが、甲南大理工学部の方が低い。

<学生の属性>
 次に、学生の属性を比較していくと、学部単位の男女比については、甲南大が10%程度高く、大学全体の女子学生比率も甲南大が10%高い。女子にとっては仲間が多いと考えるか、ライバルが多い?と考えるかでそれぞれの考え方はあるだろうが、女性が多いことでキャンパス内、教室内の雰囲気が華やかであることは間違いない事実だろう。
 なお、外国人留学生の比率については、近畿大理工学部が高い。国際的な学習環境としては、近畿大理工学部が勝っている。

<教育面>
 次に、教育面を比較していくと、現在、各大学が競うように力を入れている「留学」については、長期留学派遣率が高い甲南大が優勢といえる。かなりの差が開いている。先輩の学生が留学に行っている割合が多ければ、自然と留学が身近になるため、もし留学をしたいと考えているのであれば、留学している比率の高い方へ行くというのも一つの手だろう。
 専任教員一人当たりの学生数(ST比)は、甲南大理工学部の方が低い。甲南大理工学部の方が「少人数教育」の環境が整っているといえる。

 なお、学生がどれだけ勉強しているかの指標の一つである「一人当たりの貸出冊数」については、近畿大の方が多い。甲南大の冊数の少なさは、マイナスポイントであるだろう。
 また、大学通信社による2014年度「入学後、生徒の満足度が高い大学」ランキング(進学校の進路指導教員が投票することで選定)においては、近畿大は21位(24ポイント)、甲南大はランク外(53位以下)となっている。

 上記を総合すると、充実したキャンパスライフという観点から見ると、甲南大が優勢だろうか。



「どちらが幸せな人生を送れる進路に進めるか」

項目名数値単位数値年度近畿大学
理工学部
甲南大学
理工学部
主要企業400社への就職率(%)大学201610%以下16.5
卒業生数(人)学部2015999149
進学者数(人)学部201520848
進学率(%)学部201520.80%32.20%
公務員就職者数(人)学部2015482
公務員就職比率(%)学部20154.80%1.30%
警察官就職者数(人)大学20159529
国家公務員総合職(人)大学20152数値なし(1人以下)
CA採用数(人)大学2014数値なし(8人以下)数値なし(8人以下)
国会議員の数(人)大学201520
上場企業の社長数(人)学部2006数値なし(5人以下)数値なし(5人以下)
社長の数(人)大学201562432683
社長になりやすさ
(社長の数/学生数)
大学20150.20.3
上場企業の役員数(人)学部2006数値なし(46人以下)数値なし(46人以下)
上場企業の役員数(人)大学2015139127
上場企業の役員になりやすさ
(上場企業役員数/学生数)
大学20150.0040.014

<大企業に入りたい>
 さきにお断りしておきたいのは、今回の比較は「学部」の比較であるということだ。理系の場合は、大学院に進学する割合が高く、学問分野を生かした職業に就きたければ、学部卒業段階では卒業という選択肢になならない。したがって、ここでの就職とは、文系と同じ様なジェネラリスト・総合職社員としてのことを指しているとご判断いただきたい。
 大企業社員として就職すれば、身分は安定し、給与・福利厚生などの待遇面での心配も少ない。その意味で、主要400社への就職率を比較材料として示しているが、甲南大は16.5%の数値を誇っおり、近畿大と比較して優れているといえる。
 もっとも、いわゆる「学歴フィルター」の対象としては、甲南大理工学部と近畿大理工学部で目に見えるほどの差がつくことは考えられないため、いかに充実した(中身のある)大学生活を送るかによって、大企業に就職できるか・できないかは変わってくる。大企業に就職したいからという理由でどちらかの大学を選ぶという判断材料にはなりえないだろう。

<大学院に進学する>
 大学院進学率は、甲南大理工学部の方が高く、大学院に進学する場合は甲南大理工学部がいいだろう。もっとも、大学院進学率は専攻する分野によって異なるため、単純比較はできない側面もある。

<公務員になりたい>
 学部単体の公務員就職比率は、近畿大理工学部が高い。教員就職の割合が高いことが推測される。

<主要な就職先の比較>

近畿大学
理工学部
甲南大学
理工学部
大阪府教育委員会トラストテック
きんでん大塚商会
ジェイテクト西兵庫信用金庫
明治宇宙航空研究開発機構
NTN
西日本旅客鉄道
ローム
関西電力
大阪ガス
西日本電信電話

 主要就職先については、双方とも幅広い業界に進んでいる。あくまで主観的な印象ではあるが、近畿大理工学部の就職先の方、企業のネームバリューが上の企業が並んでいる印象を受ける。

<出世した先輩の多さ>
 先輩がどの程度、出世しているかを比較すると、大学の規模を加味すれば甲南大が優位であるといえる。上場企業の社長数、役員数ともに多数の輩出実績がある。これだけの「先輩」がいれば、「学閥」として有利に働くこともあるかもしれない。一方で、近畿大の方は、何よりも卒業生数の多さが強みであり、大企業から中小企業まであらゆる企業に卒業生がいることはメリットになるだろう。


<どちらの大学が頑張って「改革」しているか>

項目名数値単位数値年度近畿大学
理工学部
甲南大学
理工学部
国からの特別補助金支給額
(千円)
大学2015495,208199,339
学生一人当たり
特別補助金支給額(千円)
大学20151622

 大学教育の現場では、随分前から「改革の必要性」が叫ばれている(大手大学ほど、その改革が進んでいないともいわれる…)。その観点でどちらが頑張って「改革」しているかを、最後に見てみたい。扱うデータは、改革を行っている大学に国から支給される「特別補助金」の額である。
 この数値を比較すると、甲南大が勝っており、改革で先行しているイメージがある。
 しかし、大学通信社による2016年度「改革力が高い大学」ランキング(進学校の進路指導教員が投票することで選定)においては、近畿大が1位(296ポイント)、甲南大はランク外(21位以下)となっており、高校現場の印象では、近畿大が改革のイメージが強いようである。

<まとめ>
 以上、近畿大理工学部と甲南大理工学部を比較してみてきた。全体としては、ほぼ互角の印象である。入試難易度は近畿大理工学部が少し優勢であるものの、コスト面、大学生活面では甲南大が優勢、就職面は甲南大がやや優勢であり甲乙つけがたい。最終的な判断については、是非、両大学のキャンパスの見学をしたうえで決めてもらえればと思う。
 そして、最後に強調したいのは、「理工系学部」は、学問分野が細分化されているため、どこで学ぶかよりも「何を学ぶか」が重要であることは忘れてはいけない。
 理系の研究は「人(教員)」に張り付いているケースが多く、教員の大学間移籍も文系と比べて活発である。自分の学びたい学問分野の第一人者が片方の大学にしかいなければ、文句なしにそちらの大学を選ぶべきである。「理工系学部」を選ぶ以上は、そういった観点も含めて、大学選択を行っていただければ幸いである。